「なぜNIPTは3種類の染色体しか調べないのですか?」というご質問はよくいただきます。「全部調べてほしい」と思うのは自然な気持ちですが、21・18・13トリソミーの3疾患に絞っているのには、医学的な理由があります。
染色体は全部で46本(23対)
人間の染色体は通常46本あり、23対のペアで存在します。理論上はどの染色体でもトリソミー(3本になる状態)が起こり得ますが、実際に生まれてくる赤ちゃんで問題になるのは限られています。
ほとんどの染色体のトリソミーは妊娠初期に自然に淘汰(流産)されます。生まれてくるほど生命力のある形で残るのが、21・18・13トリソミーです。
染色体の大きさ(遺伝子量)と赤ちゃんへの影響
なぜ「21・18・13」なのか。その鍵は、染色体に含まれる遺伝子の量にあります。1番から22番までの染色体は、それぞれ含まれる遺伝子の量が異なり、遺伝子の量が多い染色体が3本になるほど、赤ちゃんへの影響が大きくなります。
- 21番染色体は、最も遺伝子の量が少ない染色体です。そのため、21トリソミー(ダウン症候群)の赤ちゃんは生まれてくることができ、適切なサポートを受けながら生活することができます。
- 18番・13番染色体は、21番よりも遺伝子の量が多くなります。18トリソミー・13トリソミーの赤ちゃんは、多くの場合、妊娠中や生まれた直後に亡くなることが多いものの、生まれてくることは可能です。
- それ以外の染色体(1番・2番・3番など)のトリソミーは、遺伝子の量がさらに多いため、赤ちゃんが育つことができず、ほとんどが妊娠のごく早い時期に流産となります。生まれてくることができないため、検査で調べる意味がほとんどありません。
つまり、NIPTが3疾患を対象とするのは、「生まれてくる可能性がある染色体異常」に絞っているからなのです。
3疾患に限る理由①:精度が高い
NIPTは、お母さんの血液中の赤ちゃん由来DNA(cfDNA)を解析しますが、すべての染色体で同じ精度が保証されるわけではありません。
21・18・13トリソミーは証拠が積み重なっており、検出率・偽陽性率ともに信頼できるデータがあります。一方、他の染色体(例:16番、22番など)は偽陽性率が高く、陽性でも実際には赤ちゃんに異常がないケースが多くなります。
3疾患に限る理由②:胎盤モザイクの問題
稀な染色体のトリソミー(21・18・13以外)では、胎盤だけに異常があり、赤ちゃんの染色体は正常というケース(胎盤限局性モザイク)が多いことが知られています。
この場合、NIPTが陽性を示しても、赤ちゃんは実際には健康です。にもかかわらず、妊娠中に大きな不安を抱えることになり、確実な診断をつけるためには羊水検査などの追加検査が必要となって、心身の負担が増えてしまいます。稀なトリソミーを対象に加えると、こうした偽陽性が非常に多くなってしまうのです(モザイクについて詳しくはモザイク型染色体異常とは — NIPTで検出しにくい理由)。
3疾患に限る理由③:臨床的な意義
染色体異常にはさまざまな種類がありますが、出生前に知ることで準備や意思決定に役立つ情報として確立されているのは、現時点では主にこの3疾患です。検査結果が出ても対応方法が不明確な疾患を検出することが、必ずしも患者さんの利益になるとは限りません。
モザイク型トリソミーについて
ごくまれに、体の一部の細胞だけにトリソミーがある「モザイク型」という状態で、他の染色体のトリソミーを持つ赤ちゃんが生まれてくることがあります。しかし、この場合、赤ちゃんにどのような症状が出るのか、どのくらい重症になるのかを妊娠中に正確に予測することは非常に難しいのが現状です。
性染色体や微細欠失は?
「性染色体(XXYなど)や微細欠失も調べられますか?」と聞かれることがあります。技術的には一部可能ですが、偽陽性率が高く、陽性的中率(本当に異常がある確率)が低いため、当院では標準の3疾患検査をお勧めしています。詳しくは拡大NIPT(全染色体・微細欠失)を受ける前に知っておきたいことやNIPTが3疾患を対象とする理由もご覧ください。
まとめ
NIPTで21・18・13の3種類に限定しているのは、以下の理由からです。
- これらのトリソミーは、生まれてくる可能性がある(染色体の遺伝子量が比較的少ないため)
- 検査の精度が高く、信頼できる結果が得られる
- 他の染色体のトリソミーは、ほとんどの場合、妊娠継続が困難である
- 他の染色体を調べると、かえって不確実な情報(偽陽性・胎盤モザイク)により不安が増える可能性がある
「全部調べる=より安心」ではなく、精度の高い検査で確かな情報を得ることが大切です。ご不明な点がございましたら、遠慮なく担当医にご相談ください。
参考文献
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- Grati FR, Ferreira J, Benn P, et al. Outcomes in Pregnancies With a Confined Placental Mosaicism and Implications for Prenatal Screening Using Cell-Free DNA. Genetics in Medicine. 2020;22(2):309-316.
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本コラムは、出生前診断について理解を深めていただくための一般的な情報提供を目的としています。検査の適応や結果の解釈は、妊娠週数やお一人ひとりの状況によって異なります。具体的なご相談は、外来で医師・専門スタッフへお気軽にお声がけください。
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