先天性心疾患(生まれつきの心臓の病気)は、約1,000人に8〜10人に見られる、最も多い先天異常のひとつです。出生前に把握しておくことで、準備や対応が大きく変わります。
なぜ心臓を専門的に見る必要があるのか
一般の妊婦健診でも超音波で心臓を確認しますが、四腔断面(4つの部屋が見えているかどうか)の確認にとどまることが多いです。これで発見できる心疾患もありますが、複雑な心臓の構造異常(特に大血管の接続の異常など)は、より専門的な評価をしないと見逃されることがあります。
すべての妊婦さんに心臓スクリーニングが勧められる理由
先天性心疾患をもつ赤ちゃんの90%以上は、家族歴やリスク要因のない妊婦さんから生まれます。「リスクの高い人だけ調べる」やり方では多くを見逃してしまうため、国際的なガイドラインでは、すべての妊婦さんに妊娠中期の超音波で心臓のスクリーニングを行うことが推奨されています。当院でも、心臓の確認は妊婦健診を受けていただく方全員にお受けいただく標準的な診療と位置づけています。
標準的なスクリーニングでは、次の断面を確認します。
- 心臓の4つの部屋(四腔断面)
- 心臓から出る大血管(流出路)
- 3本の血管と気管の位置関係(3血管気管断面)
異常が疑われた場合は、専門医による詳しい胎児心エコー検査へ進みます。
妊娠初期の心臓スクリーニング(12〜13週)
妊娠12〜13週の初期段階でも、専門的な超音波機器と技術があれば、心臓の基本的な評価が可能です。
この時期に特に有用なのがSlowflowHDを用いたカラードプラ超音波で、心臓内の血流を詳細に描出できます。大血管の走行異常など、中期以降でないとわからないとされていた所見が、初期から把握できる場合があります。当院院長は、この方法で妊娠初期に大血管の異常を捉えられることを示した研究を国際学術誌に発表しています(院長の研究をわかりやすく)。
当院の初期の心臓スクリーニングでは、この技術を用いた専門的な評価を行っています。
妊娠中期ドックの心臓の検査(19週前後)
この時期に基本的な心臓の構造をチェックします。さらに27週前後に受ける心臓・後期ドックではさらに詳細な観察が可能です。心臓・後期ドックでの胎児心エコー では:
- 心臓の4つの部屋の形と大きさ
- 弁の動き
- 大動脈・肺動脈の接続と太さ
- 心臓内の血流の方向
これらを詳しく評価し、先天性心疾患の診断や重症度の把握を行います。
出生前に見つけておく意義
胎児期に心疾患が見つかると、突然の緊急対応ではなく、計画的な医療につなげられます。これは赤ちゃんの予後を大きく左右します。
1. 出生後の急変を防ぎ、命を守る 重症の心疾患では、生まれた直後は元気に見えても、お腹の中と生後で血液の流れが大きく変わるため、数時間〜数日で急変することがあります。妊娠中にわかっていれば、小児循環器・新生児の専門医がいる施設での出産、生直後からの薬(プロスタグランジン)の開始、緊急処置の準備ができます。大血管転位症や大動脈縮窄症などの重症心疾患では、手術前の死亡率が「妊娠中に診断 約0.3%」に対し「出生後に診断 約3.0%」、術後の生存率も妊娠中診断のほうが高い(約99.3% 対 約97.0%)と報告されています。
2. 赤ちゃんの臓器を守る 診断が遅れると、酸素が十分に届かない時間が続き、脳・腎臓・腸などの臓器がダメージを受けることがあります。妊娠中に診断された赤ちゃんでは、酸素や血液の酸性度が良好に保たれ、壊死性腸炎や腎障害などの合併症が少なく、脳への影響も軽減されると報告されています。
3. 最適な治療計画を立てられる 出産の時期・方法(経腟分娩か帝王切開か)、生直後の処置、手術やカテーテル治療のスケジュールを、前もって整えられます。
4. ご家族が心の準備をする時間を持てる 専門医から十分な説明を受け、治療の選択肢を落ち着いて考え、必要なサポート体制を整える時間が生まれます。
染色体異常・遺伝性疾患と心疾患の関係
先天性心疾患をもつ赤ちゃんの一定数は、心臓以外の異常や遺伝的な要因を併せ持ちます。とくに次の疾患では、心疾患を合併する割合が高いことが知られています。
| 疾患 | 心疾患を合併する割合 |
|---|---|
| ダウン症候群(21トリソミー) | 約40〜50% |
| 22q11.2欠失症候群 | 約60〜80% |
| ヌーナン症候群 | 約80% |
| ターナー症候群 | 約30% |
| ウィリアムズ症候群 | 約50〜80% |
そのため、心疾患が見つかったときは、染色体検査や遺伝子検査を行うきっかけにもなります。NIPTで染色体を評価しながら、超音波で心臓も確認することで、より総合的な評価が可能です。詳しくは先天性心疾患についてもご覧ください。
まとめ
- 先天性心疾患は約1,000人に8〜10人に見られ、出生前診断が役立ちます。
- 90%以上はリスクのない妊婦さんから生まれるため、すべての妊婦さんへの心臓スクリーニングが勧められます。
- 初期(12〜13週)と中期・後期で、それぞれ異なる評価ができます。
- 出生前に把握することで、出産場所や生後の医療計画が立てやすく、急変を防ぎ、赤ちゃんの命と臓器を守ることにつながります。
参考文献
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本コラムは、出生前診断について理解を深めていただくための一般的な情報提供を目的としています。検査の適応や結果の解釈は、妊娠週数やお一人ひとりの状況によって異なります。具体的なご相談は、外来で医師・専門スタッフへお気軽にお声がけください。
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